江ノ本のつれづれblog

映画やゲームのレビュー・感想を中心に書いていきます。

【レビュー/50点】『関心領域』最後まで関心を逸らさなかった者だけがこの映画に石を投げろ!!

こんにちは。

今話題の『関心領域』を見てきました。レビュー・感想です。

あえて点数をつけるなら100点満点中50点なのですが、おもしろいとかつまんないとかいう映画ではない気がしますね…。娯楽作品ではないので。

ネタバレあるので嫌な人は気をつけてください。

https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/images/intro_head.jpg?1717912811452

happinet-phantom.com

あらすじ

舞台は第二次世界大戦中のドイツ。

アウシュヴィッツ収容所に隣接する邸宅で暮らすドイツ人将校の一家は平穏な暮らしを営んでいた。

夫(ルドルフ・ヘス - クリスティアン・フリーデル)はアウシュヴィッツ収容所の建設を取り仕切る司令官である。

妻(ヘートヴィヒ・ヘス - ザンドラ・ヒュラー)は夫の任務で手に入れたこの邸宅をひどく気に入り愛していた。

子どもたちはアウシュヴィッツ周辺の美しく豊かな自然の中でのびのびと育っていた。

しかしその幸せな家庭の壁一枚隔てた向こう側では恐ろしい計画が実行されていた。

意図された退屈に、してやられたり!

本作は正直退屈でした。しかし、振り返ってみると、これは意図された退屈であり、監督(ジョナサン・グレイザー)にしてやられたなと、ちょっと手のひらを返したくなりました(笑)。

本作はナチスドイツによるホロコーストを題材としていますが、その悲惨さは直接的には描かれず、日常に溶け込ませて見せてくるのみです。ガス室とかガリガリに痩せたユダヤ人とかは見せてきませんので、ダイレクトにショッキングな映像を見たくない人でも観ることができます。

遠回しなやり口でユダヤ人の虐殺を描写してきますので、そうすると観ているこっちもそういった風景に慣れてくるんですね。この「慣れ」が無関心につながってくる、意識しなくなってしまうのです。

ホロコーストと隣り合わせの日常に慣れてきたあたりでちょっとストーリーが動くんですよ。「仕事の都合で引っ越すかも知れん」と旦那が奥さんに告げるんですが、その時の奥さんが強烈です。愛する我が家から離れたくない奥さんは怒り狂って叫びます。見ていて引きました。心なしか旦那も引いていたように思います。「なんとかならないの!上の人に頼んで!!」とか言うんですね。「ヒムラーに?」「そう!ヒムラーがダメならその上!!」「ヒトラーに…。はいはいわかった、上に相談してみるよ」とかなんとか話して旦那は話を終わらせるんですけど、家に戻った奥さんの怒りは収まらないんですね。この一家は金持ちなのでお手伝いさんが何人かいるんですが、そのうちの一人がちょっとヘマをして床を汚しちゃうと「なによこれは!!早く綺麗にして!!」「役立たず!いつも贅沢させてやってるのに!!バカ女!!」「夫があなたを灰にして、この辺一帯に撒いてやるわ」とかボロカス言います。ひどすぎて笑ってしまいました。

一方、旦那は「仕事と家庭に挟まれる世のお父さん」という感じで追い詰められていくんですね。仕事中にも「息抜きしないとやってられんよ…」という感じでえっちなデリバリーも呼んじゃいますし。事後にち○ち○を綺麗に洗う冷静さは、さすが将校ですね。ストレスで体を壊していく様子も描かれます。

こうして金持ちドイツ人将校一家にも人間味が見えてきて、初めは無かった共感が観ている側に生まれてくるんです。そうなったところでガツンとやられます。どうやられるかは他のレビューを読むか、映画館に行って確かめてほしいです。

平穏な生活を切り取る撮影アイデア

映像は綺麗でした。ちょっと引いたアングルで固定カメラで撮られています。メイキングによると無人で撮ったようです。カメラだけが置いてあって、スタッフがいない空間で役者が演技をしました。撮り手の意思を宿らせないことで映像の客観的な空気感を出しています。

顔のアップと表情の芝居で、研究への熱中や取り返しのつかない発明への苦悩を表現していたオッペンハイマー』とは対照的でした。

他人の生活を覗き見している感じが登場人物に対する中盤からの共感に下世話な気持ちを上乗せしてくれます

でもメイキングで種明かしというか、理屈を聞いてからその良さが増すという感じであって、本編を観ているときは意図した退屈さを出す為とは言え、眠くなりかける映像が多いです。

第96回アカデミー賞で音響賞を受賞

音響についてはみんながあれこれ書いているので特に書きません(笑)

劇中の壁の向こうから聞こえてくる音は、もう見る前からネタバレ食らってるようなものだし、「そういう見せ方をするのね〜」くらいの気持ちで観ていました。

これが、観てる側も奥さんのお母さん(この邸宅に引っ越してくる)と同じくらいのタイミングでピンとくるような組み立てならゾクッときたかも知れません。

エンドロールは個人的にはうるさくて不快でした。結構好評なようですが。

映画館で観るべき凝った演出

演出は鼻につくというか、奇をてらってらっしゃる感じで、「ずいぶん凝ってはりますなぁ〜(京都マインド)」という印象を持ちました。

赤い綺麗な花がアップで映って、だんだん画面に赤が広がっていって最後はスクリーンが真っ赤になるっていうのがあるんですが、映画館の大きなスクリーンでやられるとギョッとしますよね、くらいの冷めた目で観てしまいました。

画面がしばらく真っ暗で無音になったり急にデカい音出したり、「小学校の先生かよ!」みたいな、後から振り返るとそんな印象になります。

まとめ

正直、観てほしいとも思わないし観るなとも思わないし、観たければ観たらいいかなっていう作品でした。

ただ、物語の後半で一家もちょっとずつ壁の向こうで何が行われているのか気が付く描写があり、いたたまれなくなって物理的に距離を置いたり、目を逸らしたり、「それの何が問題で?」みたいに振舞ったり、それぞれが異なる反応を見せるんですが、「さて、今のあなたは?」と問われているような気持ちにもなるので、「考えさせられる映画」ではありました。

とはいえ、この映画でも描かれているように、生活のこと仕事のことに追われてるとウクライナとかガザとかの話もどうしても日常に溶け込んでしまいますよね。

だからこそマスコミは大谷翔平のことばっかりニュースにしてないでヒリヒリするような話題もしっかり一日の中でどっかで報道し続けてほしいし、政府とかマスコミみたいな権力を持った人間が情報を伏せてると無関心が作られちゃいますよね。

それ故に我々一般市民は団結して権力と戦わねばならない!

団結し、全ての情報を解放させるのだ!

ガンジャ解禁!らすたふぁーらーい!!

余談:犬めっちゃかわいい

余談ですが、一家が飼っている犬(黒いラブラドールレトリバー)がかわいいです。犬がめちゃくちゃ芝居してます。気まずいところに顔を出してすぐ出ていくとこは笑いました。犬好きにおすすめの映画です。馬もかわいい。

こうやって本題から離れて動物に気持ちが持っていかれるのも監督による関心領域の誘導だったかも知れませんね。

 

最後までお読みいただきありがとうございました!