江ノ本のつれづれblog

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【レビュー/80点】『鬼平犯科帳 血闘』安定の鬼平を役者の魅力が彩る!

本記事は『鬼平犯科帳 血闘』のレビュー記事です。

ちょっとだけネタバレを含みますのでご注意ください。

本作の物語は過去にテレビドラマ化もされている定番エピソードであり、安心して観ることができました。映像面でも驚かされるポイントがあり、音響も作品への没入感を高めてくれました。途中で中心人物の一人がフェイドアウトしてしまうこともあり、構成はもう少し工夫してほしいところでしたが、複雑な時系列にせず見やすくなっていました。本作の見所は有名俳優達の貫禄の芝居と新たな魅力、そして映画館で上質なテレビ時代劇を楽しめることにあるでしょう。

中村吉右衛門の『鬼平犯科帳』好きの私としては100点満点中80点といたします。

時代劇を普段見ない人にもヒーローアクション作品としておすすめです。

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基本情報

配給:松竹

監督:山下智彦

原作:池波正太郎

脚本:大森寿美男

公開:2024年5月10日

作品時間:111分

あらすじ

長谷川平蔵のもとに、彼が若い頃に世話になった居酒屋の娘・おまさが現れ、密偵になりたいと申し出る。平蔵にその願いを断られたおまさは、平蔵が芋酒屋主人と盗賊の2つの顔を持つ鷺原の九平を探していることを知り、独断で調査に乗り出すが……。

(引用:鬼平犯科帳 血闘 : 作品情報 - 映画.com

登場人物についてちょっと補足を…。

長谷川平蔵火付盗賊改方の長官。火付盗賊改方とは、江戸の重罪である放火と強盗、賭博を取り締まる役職である。その厳しい手腕から長谷川平蔵は「鬼の平蔵」、「鬼平」と呼ばれて悪党から恐れられている。若い頃は結構な遊び人だったが、今では配下の与力や同心(どちらも江戸幕府の役職。同心のほうが与力より格下)達から信頼されている。

おまさ:若き日の平蔵を知る女性(本作では何故か平蔵よりも非常に若く見える(笑))。父親が元盗賊。平蔵に秘かに思いを寄せていた父の死後は盗賊一味の引き込み役(盗みのターゲットに事前に潜入して盗賊をサポートする役目。簡単に言えばスパイ。金持ちの家に住み込みで働いたりする)として働いていた。平蔵が火付盗賊改方長官に就任したことを知り、盗賊から足を洗って密偵(平蔵が悪党を捕まえる為の情報収集をする)として平蔵のもとで働きたいと考えている。

九平:芋酒屋を営んでいる老人。芋酒屋の主人は表の顔で、実は盗っ人である。九平は人を殺さず痕跡を残さずこっそり盗みを働くことに盗っ人としての誇りを持っている。ある日いつものように忍び込んだ盗み先で押し込み強盗の現場に遭遇してしまう。自身には無関係な強盗事件のせいで平蔵に目をつけられてしまう。

網切の甚五郎:九平が目撃した押し込み強盗を働いた盗賊団の頭。異常なほどに長谷川平蔵を憎んでいる。以前はスマートな盗っ人稼業を営んでいたらしいが、現在は盗み先の人間を皆殺しにしている。

定番エピソードの人気エピソードが令和に蘇る!

本作の物語は過去のテレビ時代劇や漫画等でも定番の人気エピソードとなっております。人気エピソードだからこそファンとしては期待と不安を感じてしまうところですが、本作は令和のキャストとスタッフで見事に映像化されていました。

物語の大きな要素は以下の4つになります。

  • おまさのスリリングな単独調査は成功するのか!?
  • 火付盗賊改方と強盗団のいざこざに巻き込まれた九平の顛末やいかに!?
  • 網切の甚五郎は何故長谷川平蔵を憎み、惨い盗みを働くのか!?
  • 平蔵、おまさ、九平、甚五郎を結びつける因縁とは!?

主に活躍するのはおまさと九平であり、圧倒的なインパクトを残すのは網切の甚五郎なのですが、本作で起きる騒動の根っこにいるのは皮肉にも平蔵であるという、なんともやるせないストーリーとなっています。渋いです…。

本作では遊び人時代の長谷川平蔵についても描かれるので、初めて『鬼平犯科帳』シリーズに触れる人でも平蔵というキャラクターの魅力をつかみやすくなっていました。単なる正義の味方、清廉潔白な武士ではない平蔵だからこそ、その義理と人情に溢れたふるまいにも説得力が出てきます。

映像面では随所にCGやミニチュアの技術が使われていながらも不自然な印象を受けない仕上がりとなっていました。私はVFXやミニチュア特撮が好きなので「なんだか今のカットはおもしろかったな」とか「これどうやって撮ったの!?」とか割と敏感に反応しながら映像そのものにも驚かされる部分がありました。

音響面で個人的に評価したいのは映画館で味わう素晴らしい環境音です。緊迫したあるシーンで感じましたが、その場に居合わせているかのように思わせる音に包まれる感覚はテレビ放映では味わえないものでした。是非劇場で鑑賞してほしいと感じるポイントです。

構成はやや単調で中だるみあり

本作の構成は基本的に物語の始まりから終わりまで時系列を追って描かれるので、非常にわかりやすくなっています。後半で一旦過去の平蔵達のエピソードが集中的に入ってきて、ここで熱い展開が用意されてから現在に戻り、終盤にかけて一気に盛り上がっていきます。

ただ、この後半に入る前に私の大好きな(笑)九平に関する話が一段落ついてしまい、九平の見せ場が無くなってしまったことが残念でした。その上さらに、九平の件に片がついて、さあ残るは網切の甚五郎だというところで少し展開がもたついた感があり、やや中だるみを感じました。

中心人物達の過去の関係をもう少し映画全体に散らして挿入し、凶悪な甚五郎と決着をつけた後、さて九平はどうなってしまうのかという流れでエモいラストを見せてほしかったというのは私のワガママでしょうか。

注目の役者6名

松本幸四郎

頼れるお頭である鬼の平蔵をちょっぴりお茶目な味付けで演じていました。幸四郎さんの小粋な雰囲気が分け隔てなく仲間や町民に接する長谷川平蔵にマッチしていました。火付盗賊改方の長官として考えるとちょっとお顔が上品すぎるかな?という感じもありましたが、怒りをあらわにした際の鬼っぷりと平時とのギャップはグッときました。

市川染五郎

若き日の平蔵「長谷川銕三郎」を演じた染五郎さんは、若々しくフレッシュな芝居でした。銕三郎の青臭さは染五郎さんの若さによって引き出されていると感じました。これから情に厚い粋な平蔵に育っていくことを予感させる銕三郎を実直に演じることに成功しています。

柄本明

九平を演じた柄本明さん。スクリーンに映っていない時に物足りなさを感じてしまうほどの存在感はさすがです。九平の、やってることは泥棒だけども憎めない感じと滲み出る胡散臭さは柄本明さんならではでしょう。盗みの腕は確かだが事の成り行きに逆らえないお人好しな感じを貫禄の芝居でコミカルに演じています。

中村ゆり

おまさを演じる中村ゆりさんは、最初に見た時はこんな細っこい若い娘におまさが演じられるのかと疑ってしまいましたが、杞憂に終わりました。胆の座った強い決意を胸に秘めたおまさを見事に演じ切っています。中村ゆりさんの美しく儚げな佇まいがおまさというキャラの魅力を引き立てていました。好きになっちゃいました

北村有起哉

網切の甚五郎を演じた北村有起哉さんはとにかく顔が怖かったです。今日本で一番怖い顔をしていると言っても過言ではない。アマゾンのCMでも怖い役じゃないのに怖かったですね。

志田未来

志田さんは甚五郎に協力する引き込み女の「おりん」を演じています。引き込み女ですから卑怯なことも色仕掛けもお手の物というわけですが、そんなおりんを志田未来さんが見事に演じていました。こういう芝居もできるのかと驚かされました

小学生の頃から子役として『女王の教室』(日本テレビ・2005年)等で活躍している姿を知っているので、本作での妖艶な悪女の演じっぷりを見ると、見たくない面を見てしまったような気持ちになるほどに艶っぽい芝居を見せてくれています!

私が色街に遊びに行った客だったらほいほいついていきます。そして極秘情報を漏らして用済みになったところを殺されるでしょう。

もともと丸顔で童顔の志田さんなんですが、その目つきは修羅場を経験してきた陰のある女のそれでした。志田未来さんを本作の最優秀賞助演に私は推したいです!

まとめ

定番エピソードを見事に令和に蘇らせた『鬼平犯科帳 血闘』は時代劇初心者の方でも見やすい作品となっています。

時代劇ファンの方にはテレビとは一味違った鬼平体験を是非映画館で味わっていただきたいと思います。

時代劇ということもあって普段とは違った役者さんの魅力も楽しめますよ。

時代劇のこれからが楽しみなる、おすすめの一作です。

 

最後までお読みいただきありがとうございました!

 

過去の『鬼平犯科帳』はAmazon Prime Videoでも視聴できます。

松本幸四郎さんの『鬼平犯科帳』前作はこちら

中村吉右衛門さんの『鬼平犯科帳』もおすすめです。