『マッドマックス:フュリオサ』(原題:Furiosa: A Mad Max Saga)を観てきました。
レビュー・感想を書いていきます。
ネタバレされたくない人はご注意ください。
本作は前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(原題:Mad Max: Fury Road)を期待している方はスルー推奨です(^^;
点数をつけるとすれば100点満点中40点とさせていただきます。
私は前作のノリを期待して鑑賞し、テイストの違う本作に終わりまでハマれなかったのでこの点数としました。
前作のカラッとした雰囲気は存在しない
前作の持ち味だったバカバカしく大胆な雰囲気とは打って変わって、本作は陰鬱な雰囲気をまとっており、グロテスクな描写も前作よりも陰惨なものになっています。
フュリオサ(アニャ・テイラー=ジョイ)の前日譚として復讐部分にひたすら焦点を当てているので重苦しい雰囲気にするというのもわかりますが、前作の中心物フュリオサのスピンオフ作品として私が求めている物とはズレがありました。
フュリオサの辛く悲しい生い立ちの中で彼女があっけらかんとしていないのは当然のことです。それにしても中盤になるまで彼女の味方となる人物が誰一人登場しないというのは、観ているこちらとしては彼女に同情してしまうのと同時に、いつになったらフュリオサは反転攻勢に出るのだろうとストレスを感じました。
もっとスピードが欲しくなるアクション
アクションはスピード感よりもスリル感を増したものに変化し、前作を爽快寄りとすると、本作はハラハラとしたシーンの連続で息が詰まるような展開が中心となります。
改造カーやバイクによるチェイスシーンは本作でも健在で、砂漠の中を人間達が激しく暴れまわりますが、カメラのアングルやシチュエーションのせいでしょうか、スピードを感じられません。
前作が改造カーやバイクのエンジンを相手が吹かしたらこっちはもっと吹かすぜ!そして無鉄砲なやり方で相手を殺すぜ!という勢い重視のチェイスでした。それとは違うことをやろうとしたのでしょうが、本作のディメンタス(クリス・ヘムズワース)が率いる軍団の戦術は少々小賢しくチマチマとしたものに見えます。
彼らは上下左右から様々な手で攻めてきますので、その多彩さを楽しむことができますし、しつこさは前作のイモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)とウォーボーイズの軍団よりも脅威に感じました。しかし暴力性に圧倒されるというよりはその執拗さに苛立たされる映像となっています。思うに、これは音楽面での演出が原因です。前作のイケイケノリノリな音楽と比べると本作は緊張感を高める曲が多用されるため、ディメンタス軍団のしぶとさはホラー要素を持つモンスター映画を思い出させます。ターミネーターやエイリアンならばそれもいいのですが、ディメンタス軍団はキャラが弱いのでアクションシーンが盛り上がりません。
主人公フュリオサのアクションは一歩間違えば死と隣り合わせの状況でじっと耐えたり危険な状況で作業をしたり遠距離狙撃したりと活躍はしますが、むしろ彼女の母親メリー・ジャバサ(チャーリー・フレイザー)のほうが颯爽と馬にまたがり敵を追いかけまわしては撃ち抜き叩き切りと爽快な仕上がりとなっていて、主役を食っている始末です。メリーの相棒も集落を守る頼れる女として短い登場時間の中で活躍しキャラが立っており、メリーとこの相棒による冒頭のアクションシーンが本作のクライマックスである可能性は高いです…。
そのフュリオサママの活躍を描くために入れられた子どもフュリオサのやらかしも、ただ迂闊なだけでしかなくて、何この映画という気持ちが冒頭から出てきてしまいました(^ ^;
冗長な展開が余計に長く感じる148分
ストーリー展開はディメンタス軍団とイモータン・ジョー軍団の大乱闘を期待させますが、あくまでもフュリオサのディメンタスに対する復讐にフォーカスを当てたものになっています。フュリオサの前日譚ということを考えれば軸がぶれなかったと言えますが、悪く言えば観客に対して肩透かしを覚えさせてこじんまりした印象を与えます。
フュリオサが彼女の母と共に悲劇に見舞われ囚われの身となってからイモータン・ジョーの軍団の中で頭角を現し女戦士としてディメンタスへの復讐を果たそうとする流れは丁寧に描かれていますが、もう少しすっきりとした展開に落とし込んでほしいところです。
フュリオサの母の仇であるディメンタスの行方もストーリー中盤あたりで一時すっぽりと抜けてしまっていて、何をどの程度描いておくべきかというバランス感覚に欠けています。ディメンタスが砂漠の世界のいくつかの拠点を手中に収めますが、それも「いつの間にか」という見え方になっていて、そういえばこの男に対して復讐する物語だったなと思い出しながら観ていました。
イモータン・ジョー軍団の砦で一般ウォーボーイズとして生活するようになったフュリオサは自身が女であることを隠しているため、砦の中では目立たぬように振舞います。そんな彼女が外の世界に足を踏み出すきっかけとなる任務が物語の都合で用意され、彼女に理解を示す登場人物として警備隊長ジャック(トム・バーク)が登場します。彼女の素性が隠されたまま彼女を活躍させねばならないためにジャックのようなワンクッションを要しており、これも展開を冗長に見せます。
そのくせ、フュリオサとジャックの別れは意外なほどにドライな描かれ方をしていました。別に湿っぽくお涙頂戴にすべきとは思いませんが、ジャックという男は本作の中でもタフなナイスガイだったのでもっと救われてほしいという気持ちがもやもやと心に残っています。
また、本作を冗長に見せる特徴のひとつとして、これから盛り上がりそうな展開になったところで場面転換を挿し込むというものがあります。デデデデデン!♪という音楽と共に画面が真っ暗になる箇所が2回ほどあり、大変盛り下がりました。ここでもうひと押ししてスッキリする着地を見せてくれよと思い、あくびが出ました。
本作は2時間オーバーとボリュームたっぷりの作品です。ボリュームがあるのはいいのですが、上記のような冗長に感じる要素のせいでこれに2時間以上かける必要あるのか?と首をかしげてしまう作品になっていました。
力不足なディメンタス
物語を盛り上げる悪役としてディメンタスは魅力に欠けていました。
フュリオサが復讐心を燃やす相手としては小物に映っています。仲間を引き連れているものの強大な拠点を築くわけでもなく、敵の実力を見誤る軽率な略奪行為を働く彼は放っておけば自滅しそうな存在に見えます。また、最後の最後でこの男は長々と演説をしますが、その内容も「復讐してなんになる!」「お前もオレと同じだ!」というようなもので、今さら映画でそんなことを言われても我々観客はどうすればいいというのでしょうか。
これらのキャラクター描写によって、今レビューを書いている私の心には「本当にこの男は復讐するに値する人間だったのだろうか?」という疑念が生まれましたが、鑑賞中は「とっとと『ロボコップ』の悪役みたいに四肢爆散してくれないかなあ」と思っていました。
作中でディメンタスが仲間に呼びかける途中で「飽きた…」とぽろりとこぼすのですが、私は心の中で「オレもフュリオサの母ちゃんが出てこなくなってから結構飽きてるよおお!!」と思いました。
結局ディメンタスはイモータン・ジョーのカリスマ性を引き立てるだけの存在に終わっていて残念です。先述したように軍団同士の合戦もありませんし、彼の見せ場は惨いリンチ行為と仲間を利用した卑怯な逃走、最後の演説くらいでしょうか。こういう小物系悪党の頭が最近の流行りなのでしょうか?私は『ゴジラxコング』のボス猿スカーキングもあまり好きではありません。ここ数ヶ月でそんな悪役に二人も遭遇してしまいました。
まとめ
『マッドマックス:フュリオサ』は前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が好みな私としては満足のいかない作品でした。
前作は最低限の状況説明とアクションシーンとのメリハリが効いていて、魅力的なキャラクターと勢い重視の展開がありましたが、本作はそれらに欠けた作風となっているため、前作のノリを期待する方は映画館で観なくてもいいと、私は思っています。
また、付け加えるならば、前作に深みを与えていたフェミニズム論、ジェンダー論に基づいたテーマ性も本作では鳴りを潜めています。個人的にはメッセージ性があってもなくてもいいのですが、そういったメッセージ性を持ったテーマを扱ったという点において前作を評価した方にも本作はおすすめしません。本作でも女性の扱いはひどいものですし、それを目の当たりにしたことが前作のフュリオサの脱出劇につながるという言及はありますが、あくまでも本作はフュリオサの復讐劇です。
わざわざ前作を予習して映画館に行ったのに、残念だったな(^^;
やっぱりスピンオフはスピンオフ、外伝は外伝か…と自分を納得させて、新たな名作との出会いを楽しみにします!
最後までお読みいただきありがとうございました!