江ノ本のつれづれblog

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【レビュー】『インサイド・ヘッド2』はセラピストであり、予防接種でもある

子供から大人まで楽しめるコメディ冒険劇が、「心」に寄り添うメッセージを残してくれた…。

インサイド・ヘッド2』を観た。

思い付きで観に行ったが、観て正解だった。

なので私なりにべた褒めで本作を紹介する。

基本情報

監督:ケルシー・マン
製作:マーク・ニールセン
製作総指揮:ピート・ドクター、ジョナス・リベラ、ダン・スキャンロン
原題:Inside Out 2
配給:ディズニー
劇場公開日:2024年8月1日

あらすじ

少女ライリーの頭の中には小さいころから彼女を見守る「感情」たちが住んでいる。

5人の「感情」、ヨロコビ、イカリ、ムカムカ、ビビリ、カナシミはいつもライリーを応援してきた。

ライリーは来年から高校生になる。

ある日ライリーは高校のアイスホッケー部のコーチから合同練習に誘われた。

ライリーも「感情」たちもワクワクしてその日を待っていた。

練習初日の朝。ライリーはひどく機嫌が悪かった。

ライリーは思春期を迎えたのだ。

とまどうヨロコビたちの前に、突如新しい「感情」たちが現れる。

シンパイ、イイナー、ダリィ、ハズカシ。

彼らは、大人になろうとするライリーにとってヨロコビたちは邪魔だと言ってヨロコビたちを司令部から追い出してしまう。

ライリーの様子はますますおかしくなる。

大好きなライリーを救うためにヨロコビたちは司令部を目指してライリーの頭の中を冒険することになる…。

おすすめポイント

子供に楽しく、大人に感慨深い冒険劇

本作は子供向けかつ心の問題を扱った作品であるため教育的な内容をイメージさせるが、説教臭さは一切ない。ライリーが感じる思春期の苦悩について少々心が痛くなるような部分もあるが、物語全体としては温かい目線で綴られているので、子供と保護者が安心して鑑賞できる内容になっている。

本作を観て、小さな子供は美しい映像や「感情」たちのわかりやすいキャラクターを楽しめるはずだ。一方で大人は我が子の今後の成長をどう受け止めればいいのか考える、あるいは自分がティーンエイジャーだったあのころに思いを馳せることになるだろう。

作品のメインはライリーの頭の中の世界を目まぐるしく駆け回る冒険が占めており、エキサイティングな映像を楽しむことができる。

劇中でライリーは自分よりちょっとオトナな高校生たちとの交流の中で背伸びをしたり無茶をしてしまう。これはヨロコビたちを頭の中の司令部から追い出したシンパイたちがライリーにさせていることだ。ヨロコビたちが冒険するライリーの頭の中の世界はライリーの行動とリンクしていて、結果的にシンパイたちの指示が様々なアクシデントに形を変えてヨロコビたちの行く手を阻むことになる。

人間が子供時代に持っている感情は思春期の訪れによって徐々に抑圧されていく。ヨロコビたちの冒険はその心の変化の比喩であり、冒険の様子はコミカルで楽し気だが、観る者を少々感傷的な気持ちにさせてくれる。

投げっぱなしの無い丁寧なシナリオ

本作のシナリオは、いかにも伏線という思わせぶりをせず、観ていてなんとなく気になる要素が物語のキーとして役目を果たしている。思わずうなずいてしまう上質な作りでありながら、子供を置いてきぼりにするような難しい言葉や、激しく過去と未来を行き来するような複雑な構成は使われていない。

「なんとなく気になる要素」の例をひとつ挙げよう。

ヨロコビたちはストーリーの序盤で、「最高の思い出以外は全部捨てちゃおう!」「こんな思い出ライリーには必要ない♪」と言いながらライリーの嫌な思い出のボールをゴミ捨て場に捨てている。

私はヨロコビたちのこの行動に気持ち悪さを感じながら映画を観ていた。人間の心ってそんな都合よく片付けられるものじゃないからだ。おかしなことをするなあ。なぜこんな描写をするのだろう。

私が感じたこの気持ち悪さは終盤の展開によって見事に解消された。巨大な悪が倒されたわけでもないのにカタルシスを感じた。気持ちが晴れやかになった。これは本シリーズが「心」を扱っていることも関係しているだろう。ポップなアニメーション映画の皮を被ったセラピストのような作品である。

他にも「いくら喜びの感情とは言え、ヨロコビはいつも明るく張り切りすぎだろう」とか「心の樹ってずいぶんだいじに扱われてるけど、なんなの?」(私は前作を観ていないのでこの程度の疑問が湧いてくる)といった思いが映画を見るうちに浮かんできたが、それらについてもしっかりと応えてくれていた。

すべての年代の「心」に寄り添うメッセージ

本作からのメッセージを私は次のように受け取った。

「子供から大人になるときには多かれ少なかれ痛みや苦しみを感じるものだが、それは新しい自分と向き合えるようになるために必要なことである。そのとき私たちの頭の中で暴れている感情は誰一人悪者ではなく、自分らしさを受け入れるための試練にみんなで立ち向かっている。だからどの感情も大切にしてほしい。」

このメッセージはまだ思春期を迎えていない子供にはピンとこないだろう。むしろ、一緒に観ている保護者や、単に映画好きの大人のほうが思春期を経験している分この映画に込められたメッセージを感じ取りやすいはずだ。

だからといって、小さな子供がこの映画を観る意味が無いかというと、私はそうは思わない。自分がまだ思春期を迎えていなくても、クラスの友達がそろそろライリーのようになるかもしれない。自分の姉や、友達の兄がライリーのようになるかもしれない。自分もそのうちライリーのようになるだろう。そのとき、この映画のメッセージは予防接種のように子供たちの心に働きかけるに違いない。

今まさに思春期に突入している10代の子にっとては、本作は自分を客観視するヒントになるだろう。部活や勉強、友人関係で困ったときに頭の中の「感情」たちを思い浮かべると少し気持ちが楽になるかもしれない。

そして、すっかり思春期を終えた大人は、本作を観てあのころの自分をねぎらってあげてほしい。今の自分に優しくしてあげるのもいい。思春期が終わっても「感情」たちは忙しい現代社会でてんてこ舞いなのだから。

遊び心のある小ネタもあり

本作は作品のテーマを邪魔しないように適度に笑いが散りばめられており、コメディとしても楽しめる作品になっている。

作品内の小ネタやジョークは、大人になろうとするライリーの苦悩を重苦しく見せないだけでなく、彼女の人となりの深掘りにも役立っている。

その中のひとつとしてライリーが昔楽しんでいたカートゥーンビデオゲームのキャラクターが登場する。最新のCGで描かれたライリーの頭の中の世界で彼らは少しレトロな懐かしい姿かたちで描かれており、映像的な遊びで観る者を楽しませてくれる。是非とも映像で観てほしい。

彼らは明らかに本作クリエイター陣の世代の子供のころの思い出である。私もずばりその世代だ。子供のころにプレイステーションニンテンドウ64、それからプレイステーション2、このあたりで遊んでいた世代と言えばわかりやすいだろうか。今の子供たちには伝わらないかも知れないが、その遊び心を私は気に入った。

まとめ

インサイド・ヘッド2』は子供と大人が一緒になって安心して楽しむことができる。

「感情」たちのエキサイティングな冒険はきっと子供の心をつかむだろう。一方で大人はちょっぴりセンチな気持ちになるかもしれないが、小ネタを味わいながらコメディとして楽しんでほしい。

丁寧に練られたシナリオも本作の魅力である。思春期の苦悩を扱う本作のストーリーは観る人の思いに応え、心を動かす力を持っている。

本作のメッセージは小さな子供にはピンとこない部分もあるだろう。しかし、これから思春期を迎える子供に向けた予防接種になるはずだ。今まさにライリーのような状態にある子供、現代社会に疲れた大人は、本作を自分の「感情」と向き合うヒントにしてほしい。

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最後までお読みいただきありがとうございました。