こんにちは。
今回は2024年6月14日にNteflixで配信されたばかりのアニメーション作品『Ultraman : Rising』(以下『Rising』)を紹介します。
言わずと知れた日本のヒーロー、円谷プロが生み出したウルトラマンですけども、今作はアメリカのスタジオで制作されたウルトラマンとなります。一体どんなウルトラマンなのか、その見所と一緒に紹介していきますね。
- 基本情報
- アメリカで生まれた”日本の”ウルトラマン
- 丁寧な日本描写で”空想特撮”の精神を継承
- ウルトラマンの使命は”調和”をもたらすこと
- 赤ちゃん怪獣の世話を通して成長するケン
- 家族の再生を”ウルトラマンで”描く
- まとめ
(引用:Ultraman: Rising (ウルトラマン: ライジング) – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト)
基本情報
監督: シャノン・ティンドル
共同監督: ジョン・アオシマ
脚本: シャノン・ティンドル、マーク・ヘイムズ
プロデューサー: トム・ノット、リサ・プール
日本語吹替え版キャスト:山田裕貴(サトウ・ケン)、小日向文世(サトウ教授)、早見あかり(ワキタ・アミ)、立木文彦(オンダ博士)、恒松あゆみ(ミナ)、桜井浩子(アミの母親)、青柳尊哉(アオシマ隊員) ほか
オリジナルソング:Diplo、オリバー・ツリー、アリシア・クレティ
制作:インダストリアル・ライト&マジック(ILM)
(引用:Ultraman: Rising (ウルトラマン: ライジング) – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト)
アメリカで生まれた”日本の”ウルトラマン
記事の冒頭でも触れましたが、今作はアメリカのスタジオが制作しました。ウルトラマンといえば日本の特撮映画の父、円谷英二さんが立ち上げた円谷プロが生んだ日本を代表するヒーローであり、空想特撮シリーズとして長年日本人に親しまれてきた存在ですね。そのウルトラマンをアメリカのスタジオが制作してNetflixで配信するというのは非常に今風な感じがします。
日本のウルトラマンは過去に制作されたシリーズも海外に輸出されて様々な地域のテレビで放送されてきました。特にタイや中国といったアジアの国々で高い人気を得ています。また、メキシコ出身の映画監督ギレルモ・デル・トロは子供の頃にテレビで『ウルトラQ』(1965)や『ウルトラマン』(1966)を観て育ったそうなんですね。テレビの怪獣番組として子供達に人気というだけでなく、クリエイター達に影響を与える、そういうシリーズでもあるわけです。
そんなウルトラマンがアメリカのスタジオで制作されるということで、ちょっぴり不安に思う人もいるかもしれません。「外国人の手に渡って全く別物になってしまうんじゃないか」、「ヘンテコなウルトラマンだったらガッカリだな」、「小さい子供に見せたいけど大丈夫かな」なんてことを思うんじゃないでしょうか。1998年公開の『GODZILLA』(監督:ローランド・エメリッヒ)、今見返せば当時の日本では到底作れないモンスター映画として魅力的ですけども、当時「これはゴジラじゃない!」と思った、あの記憶が私にもありますから、『Rising』の制作発表を聞いた時は不安を感じました。
しかし、みなさんご安心ください。『Rising』は紛れもなく日本のウルトラマンです。
丁寧な日本描写で”空想特撮”の精神を継承
『Rising』の主人公はサトウ・ケンという日本人です。彼は日本生まれのプロ野球選手で、シーズン途中でロサンゼルス・ドジャースから読売ジャイアンツに移籍してきます。幼少期を日本で過ごした彼はテレビの野球中継で松井秀喜のプレイに夢中になります。日本球界に戻る際の記者会見では大谷翔平の名を口に出します。作品の中で彼は東京ヤクルトスワローズと対戦します。その他、阪神タイガースやイチローといったワードも登場します。
このような実在する個人や団体の名前が作中に登場することはウルトラシリーズでは非常に珍しいことです。初めての試みと言ってもいいでしょう。これによって作品の世界と私達が今生きている世界とが同じ世界であるという印象を強く与えています。
日本に戻ってきたケンはウルトラマンに変身して怪獣と戦うわけですが、その舞台となる日本の街並は忠実に現代の日本を再現しています。立ち並ぶビルはニューヨークのものではありません、輝かしい街の灯りは香港のものではありません、紛れもなく日本のものです。ハッキリと映像として明言されませんが、あれはあのコンビニだな、あの広告はこういう業種だな、日本人ならすぐにわかります。いわゆる「トンデモ日本」ではないのです。
風景を「トンデモ日本」にしないことで、日常に突如怪獣が現れる、どこからか巨大なヒーローがやってくるという非日常感、日常の中にアンバランスを生むというウルトラシリーズ初期から続く”空想特撮”としての魅力、哲学が『Rising』には確かに継承されています。日本が舞台ですから私達日本人には特に感じやすいし、日本に旅行で来たことがある外国人もリアリティを感じられるはず、それくらい日本の景観、特に都市の雰囲気を上手に描いています。
ウルトラマンの使命は”調和”をもたらすこと
今作の主人公サトウ・ケンは冒頭で「ウルトラマンは”調和”をもたらすための存在である」と語ります。この”調和”とはなんでしょうか。怪獣や宇宙人を退治して地球の平和を守ることでしょうか。その答えは作品を見始めた私達、そしてケン自身にもまだわかっていません。
『Rising』のウルトラマンは、彼自身も”調和”を必要とします。ウルトラマンといえば地球上の太陽エネルギーでは3分間しか活動できない、あるいは戦闘でエネルギーを著しく消費すると変身が解けてしまうというのがお決まりの設定ですが、今作のウルトラマンは精神的なストレスで心が乱れると活動限界が訪れるという設定になっています。つまりウルトラマンに必要な”調和”は”心の調和”です。
制作陣が思う「ウルトラマンとして世界にもたらすべき”調和”」のヒントがこの設定に込められていることは本編を観れば次第にわかってくるでしょう。
赤ちゃん怪獣の世話を通して成長するケン
主人公ケンは様々な問題を抱えています。彼の家族関係、ウルトラマンとして果たさなければならない責任、成り行きで保護することになった怪獣の赤ん坊の世話、プロ野球選手として求められる結果、様々なものに彼は苦しめられます。特に父との関係は彼にとって大きな問題であり、彼の人格に大きく影響しています。
そんな苦しみの中で得た出会い、発見、和解、協力が彼を変えていきます。特に彼に大きな影響を与えたのは赤ちゃん怪獣エミの存在です。しぶしぶエミを育てる中で疲れ果てた彼は本来の自分を見失います。彼は仕事で知り合った記者ワキタ・アミを頼ります。彼女は一人で子供を育てるシングルマザーとしてケンをサポートし、スターではなく一人の人間としてケンに寄り添います。アミの言葉は幼少期の自分と父との関係を考えるきっかけをケンに与えてくれます。
彼は自分が本当に望んでいたものは何なのか、自分の心と向き合っていきます。そしてウルトラマンとしてなすべきことは何なのか、見つめ直すことになります。
本編冒頭でケンは「(ウルトラマンとして”調和”をもたらす)その大変さは”自分の番”になって初めてわかった」と語ります。これは一体何を意味するのでしょうか。その答えはストーリーの中で語られます。
家族の再生を”ウルトラマンで”描く
終盤が近づくにつれケンと父親の関係に変化が現れます。ケンとケンの父親、そして赤ちゃん怪獣エミによって不思議な家族が構築されていきます。
一方で、怪獣防衛隊KDFのオンダ博士はこの世界から怪獣を根絶するために赤ちゃん怪獣エミを利用した作戦の計画を着々と進めていきます。オンダ博士が怪獣退治に命をかける理由とはなんでしょうか。
ケン達とオンダ博士の決戦を描くクライマックスの中のある展開は「日本をよく理解したアメリカのアニメーション」という本編前半の印象を大きく超えるものです。しかし、同時にそれは荒唐無稽な展開や観客を裏切るようなものではなく、ウルトラマンというキャラクターの特徴と歴史を汲んだものとなっています。
ウルトラマンという題材で家族を描くとき、何が起きるか。是非本編をご覧になってご確認ください。
まとめ
『Rising』に対して視聴前に抱いていた不安は杞憂に終わりました。
アメリカで生まれた今作は現実の日本の風景を忠実に描いています。家族の問題と人間の成長というテーマは全世界の幅広い年齢層に受け入れられるでしょう。
日本人と共に育ってきたウルトラマンを理解した上で作り上げられたことが、今作の映像と脚本から伝わってきます。
是非是非、みなさんにご覧いただきたい『Ultraman : Rising』はNetflixで独占配信中です。
どうぞお楽しみくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました。