私は日課としてほぼ毎日ウォーキングをしている。ウォーキングとは言うものの実際のところは体が重いのでほとんど散歩のようなものである。平均ペースは5km/hくらいだ。歩く場所は家の近所なのでだいたい住宅地のようなところを歩いている。そういうところを歩いていると各家庭の夕飯のにおいやお風呂場のにおいが漂ってくることがある。
ここ最近はウォーキング中に洗濯用洗剤のにおいが鼻をかすめることが多い。どこかの家で洗濯機を回しているのか、あるいは洗濯物を干しているのかと思いあたりを見回してみるが、どうもそのような気配はしない。
このように書くと他人様の家の洗濯物を物色している下着泥棒のようだがそうではない。他人の洗濯物など目に入るだけでも嫌である。見ず知らずの他人の私生活が目に入ってくるとあまりいい気分がしない。においも同様である。最近では「香害」という言葉がすっかり定着したが、ご近所にただようレベルで強い香りの洗濯用洗剤や柔軟剤を使うというのは、私のような都合のいい時だけ神経質になるような人間には到底許せないことだ。
そんな思いを抱きながらウォーキングを続ける今日この頃、SNSでは連日の夏日について嘆く声を多く見かける。その中で、「スポーツの秋、カラッとした秋晴れのもと涼しい風に吹かれながら金木犀の香りを楽しみつつ、さわやかに汗を流したいものだ(それなのにいつまでもジメジメと暑い…)」というような投稿が目に入った。
私は花というと桜とチューリップ、タンポポ、アサガオくらいしか名前と外見が一致しないような温室育ちなので、金木犀というのがどういう花なのかピンとこなかった。私としては秋の風物詩といえばスズムシとかマツムシの鳴き声くらいしか思い浮かばないのだが、このSNS上の風流人は金木犀の香りに秋を感じるというのだ。
私はさっそくネットで金木犀を検索してその姿を確認してみた。こういうときに植物図鑑が家に無くても調べられるのだからいい時代である。ふーん、こういう見た目なのか。あまり目立たないな。ほんとにメジャーな花なのか?
金木犀の姿を目に焼き付けた翌日、私はいつもどおり日課のウォーキングに出た。私の散歩道にも金木犀は咲いているかなと思いながら歩いていると、ご近所の庭の割と目立つところに当たり前のように咲いていた。知らないものというのは目に入ってこないものである。
ほー、これが金木犀か、秋を感じる香りとはどういうものかな?とにおいを嗅いでみる。これは…これは私がずっと他人の家の洗濯用洗剤だと思っていたにおいじゃないか!!!!
私は小学生の頃から登下校中に香ってくるこのにおいをずっと洗濯洗剤のにおいだと思って生きてきた。このにおいが漂ってきたとき、どこかの家庭の洗濯機が回る音を耳にし、干してある洗濯物が目に入ってきた記憶が確かにある。我が家で使っている洗濯用洗剤はこのにおいではないけれど、世の中的にはメジャーな洗濯用洗剤の香りなのだ、そう信じて生きてきた。ところがそれが秋によく咲く金木犀のにおいだったなんて…恥ずかしい。「最近は干してるだけでもにおいが漂ってくる洗剤が多くて困ったもんですね~」などと人に言わなくてよかった。
いや、ご近所さんのお庭に金木犀が咲いていてそのにおいが洗濯用洗剤だと思っていたにおいと同じだからといって、私が今まで洗濯用洗剤だと思って嗅いでいた各家庭から漂ってくる香りが全て金木犀だとは限らない(何を言っているのか)。
まだあきらめるな。そう言い聞かせながらウォーキングをした結果、思いも虚しく、行く先々で洗濯用洗剤のにおいがするところには金木犀が咲き誇っていた。ああ、今まで思い込みで香害扱いしていた想像上の洗濯用洗剤よ、ごめん。そしてよろしく、金木犀。これからはあなたを香害認定して生きていきます。
Microsoft Copilotで生成したイラスト。正直言って前より使いにくくなった…。
金木犀の香りがする洗剤は存在するようだが、この時期であれば実際に花が咲いている確率のほうが高いんだろうな…。